「Hiroshima 2020 Design Charretteを巡る議論」が4月17日中目黒のHAPPAにて開催された。当日は大勢の観客の皆さんと、6月6日のシャレット当日に参加予定の建築家の皆さんが集まり、HODCを巡り意見を交換、語り合う場となった。
会はHODC実行委員によるHODC開催に至る経緯、広島の歴史と地理的特徴、オリンピックの施設計画の歴史と課題、HODCの目指すところと6月6日シャレット当日の進め方がスライドをつかってプレゼンテーション。
その後懇親会をはさんで、第二部は建築家の皆さんに御登壇いただき、HODCを巡って議論を行った。
2020年、広島、オリンピックをテーマに対話をしながら、浮き彫りになってきたのは、第一部のプレゼンテーションのテーマにもあった地方でオリンピックすることの意義と、都市の再開発の問題だ。
オリンピックは国ではなく、都市を単位に行われ、そこではオリンピックをきっかけに都市の再開発、あるいは更新が行われるのが通例だ。だが広島は、政令指定都市といっても東京のようなアメーバ状に拡がる巨大都市とはことなり、四方を山と海に囲まれ限定的な自然要素をもった、大きな三角州のかたちをした台地の上に築かれた小さな街だ。しかもイタリアベニスと比較されしばしば水都といわれるように、その地面の上にはその土地の動脈のようないくつもの川が流れる。
広島の川と山と斜面による地理的特徴の上に空白を探して、巨大でアイコニックな競技施設を計画することをイメージするしかない現代オリンピックに倣って、東京以上に地面らしい地面のない広島では、オリンピックを契機にした都市の更新の問題は切実だ。また、都市を再開発するという視点にたってみれば、広島にはその必要も、余地もないようにみえるのではないか。
以下は昨夜の議論をきっかけに生まれた、僕の単なる空想であり、個人的な妄想だから、あまり間に受けずに読んでいただきたいのだが、経済の論理のうえにたったオリンピックはここ広島ではあまり用がないようにみえるのは僕だけではないはずだ。
広島は65年前の原爆による被爆で焼け跡になった都市だ。そこは原爆ドームや、複数の鉄骨造の建物の廃墟をのぞき、一面がれきの街になった。70年以上草木も生えないと言われた広島の街は戦後15年あまりで奇跡の復興を遂げ、戦後20年も経った頃には、戦前以上の人口を抱える大都市へと変貌した。
その広島が廃墟となった原爆ドームや焼け残ったいくつかの建物を手がかりに戦後復興していったのは言わずもがなの事実だが、それは廃墟を中心に都市が形成されているようにみえるローマやギリシャとは幾分かことなる歴史をもっているように思う。
脱線ついでに、今回のHODCを巡る議論のなかで、オリンピックスタジアムや施設が、現代のハイテクな廃墟を人為的に作り上げてしまうものなら、あらかじめオリンピックというテーマのもとに新しい都市における廃墟を作ってしまう手もある、というそんなラディカルな提案もこの議論のなかでは提示された。
僕はそのアイデアにうんうんとうなずきながら、この地球上のいくかの都市が物理的な攻撃や、あるいは時代の変遷による荒廃から廃墟となり、その廃墟から新たな都市とその歴史を刻んだ経緯をみると、都市は廃墟から生まれた、そんな空想もあながち単なる空想とはことなるもののように思えてくる。
イベントは提案者の建築家の皆さんやお客席からも積極的な意見や見解も提示され、それぞれの参加建築家の皆さんや、オーディエンスの方々がHODCのこと、都市のこと、2020年を自分のこととして考えるきっかけになるイベントになったように思う。同時に、HODCや現代オリンピックが抱える課題や問題点を、議論の場という公開の場所で話し合うこともでき、実行委員、提案者双方にとって6月6日に向けて有益な場になった。
また、あらためて確認されたのは、HODCはヒロシマオリンピック招致のための活動ではないということ。もちろん2020年のオリンピックを契機にしていることは疑いようのない事実には違いがないのだが、広島市の2020年オリンピック招致のニュースを聞き、広島出身の若手建築家が自分の街のために何か出来ないか?そんな切実な思いが本来的な背景にある。
そこから始まり、次第に広がっていった輪のなかで、それぞれ出身も出自も職業も異なる人びとが集まり、自分たちの街、そして都市や、暮らしについて思いを馳せながら2020年の暮らし、10年後の都市のあり方を考え、具体的に提案し、示していくためのプラットフォームであること。オルタナティブオリンピックを標榜し、例え「オリンピック」や「広島」を離れても、建築とデザインの力で、僕たちの未来のビジョンと、都市のあり方を具体的に提案し、語り合うことの出来る場としてHODCが機能していくことがぼんやりと宣言できたように、僕は思っている。
「Hiroshima 2020 Design Charretteを巡る議論」
DATE:2010年4月17日(土曜日)at HAPPA
18:30開場
19:00 start 21:50 close
参加者:荒木源希、佐々木珠穂(A+Ss)、伊藤暁、長坂常(スキーマ建築計画)、中村竜治、猪熊純・成瀬 友梨、馬場兼伸・黒川泰孝(メジロスタジオ)、雨宮知彦(ユニティデザイン)
[事務所名五十音順・敬称略]
HODC実行委員:佐々木高之、小川文象、木原一郎、門脇耕三、加藤孝司