実施されれば地元浅草の観光の新しいランドマークとなるのではないかと注目していた、浅草観光文化センターのコンペだが、昨年末に台東区役所にて二次審査が行われ、公開プレゼンテーションと審査会の結果、隈研吾建築都市設計事務所案が最優秀作品に決まった。
浅草観光センターといえば、浅草詣の最大の目的であり、東京観光のシンボルのひとつである雷門の面前の角地に立地し、隣にはマンガ喫茶などの看板が雑然と列なる雑居ビルが立つなど、下町らしさと繁華街らしさが渾然一体となったユニークなエリアに建つ町の情報施設だ。
また地域住民や観光客にとっては、その建物のファサードに設置された祭囃子が時を告げるド派手なからくり時計で親しまれてきた建物でもある。
観光センターという役割から、僕のような地元の人間はからくり時計の設置された外観は当たり前に知っていても、中に入ったことはない、なんて住民も多いと思われるこの施設だが、恥ずかしながらこのコンペの実施が発表されてからはじめて、興味津々に建物のなかに入ってみた。
建物内部は取りたてて特徴のない、観光のためのインフォメーションセンターといった感じだが、意外だったのは思いのほか賑わっていることだ。普段用がないので気にはしていなかったのだが、外観のからくり時計ばかりでなく、当然ながら情報施設としての機能も十分にはたしていた。
海外からの観光客の多い浅草らしく、バイリンガルで書かれた近隣情報の掲示板や道案内図、パンフレットが目立ち、天井には祭りを連想させるような大凧が展示されている。江戸の賑わいを残す浅草らしく、なんでもありな雰囲気が意外に面白い場所だ。
今回最優秀作品に選ばれ、この場所に実施されることになった建築家隈研吾さんといえば、'80s日本のポストモダン建築の代表的な建築家のひとりとして知られ、近年では竹や石など、建築する場所に固有のマテリアルを自身の建築の材として用い、風土に根ざした新しいの日本の建築様式を構築しつつある、世界的評価の高い建築家だ。
台東区のホームページでは現在、最優秀作品を獲得した隈事務所の案がPDFにて公開されており、外観内観の計2枚のCG画像を見ることができる。
CGでみる外観には、近年の隈さんらしい和をおもわせる木の格子と透明のスクリーンをもった町家風の平屋が、フロアを不規則に仕切りながら上層にのびていく、7階からなる建物が描かれている。
ふとあることを思いながらCG画像を眺めていたのだが、その外観には現在住民や観光客に親しまれ名物にもなっている、祭囃子が鳴り響くからくり時計が見当たらない。
観光センタ−名物であるこのからくり時計は1990年、時の竹下内閣によるふるさと創生資金の一億円を投入して設置した、文字通りの浅草観光名物である。
格子がつらぬく様式的な隈建築の外観に、いかにも広告的で祝祭的なからくり時計は似つかわしくないかもしれないが、通りをへだて、人々がその時間になると立ち止まり、老若男女が鈴なりとなって憩い楽しむからくり時計を、もし通りに面したファサードに設置しないのであれば、ものすごく淋しい気がするのは僕だけだろうか。
浅草といえば自他ともに認める、祭と花火に代表される、賑わいが本分となっている町だ。見世物小屋や芝居小屋、いかがわしい闇市こそ近年姿を消したが、浅草寺や浅草神社といった聖なる祈りの場所と、相反するいかがわしさが町の賑わいとなり魅力となっていたのが浅草という町だと思っている。
隈研吾さんの建築が、そんな浅草にしかない魅力を建築によって引き出してくれることを期待したい。
優秀賞には、めきめき頭角をあらわしつつある若手女性建築家の実力派、乾久美子事務所の案が選出されている。浅草に乾さんの建築、これもとても興味がある。
今月28日まで、当の観光センターにて、一等の隈事務所案とともに二次審査に残り、しのぎを削った6つの設計案がパネルで展示されているというから、近いうちに見に行ってみようと思う。
この建物の背景になり隣接するコンビニ、ファミレス、まんが喫茶の看板が列なる雑居ビルと、通りをはさんでたつ浅草のランドマークである雷門。
建物の立地条件やその土地の風土をたくみに読み取りつつ、自身の建築の形態に反映し表象化することに長けた隈氏だけに、浅草に建つ初の隈建築、大いに楽しみだ。
写真は現在の浅草観光センターの周辺風景と内観です。