高円寺という中央線沿線に共通する比較的低層の住宅やビルが連なる街中の、駅から程近い場所に建つ藤村龍至氏設計のアパートメント、BUILDING K。
曇り空のなか時々薄日のさす空のもとに実際に見たそれは、戦前の東京の風景の低層住宅しかなかった町に、日本初のRC造の都市型アパートメントである『同潤会アパートメント』が建ったときに思いを馳せさせる懐かしいたたずまいであった。外装無塗装のアスロック(押出成形セメント板)がもつ素材感は、不思議と築半世紀以上たった20年ほどまえにみた、一連の同潤会アパートメントがもつ表面のざらついたテクスチャーを思わせるそのたたずまいに近いものであった。
高円寺という昭和の風情を残す駅前の生鮮食料品を売る商店、雑居ビルや居酒屋、そして若者たちが集うショップやカフェが混在する雑多な街の風景。
垂直に上へと連なる窓のある外壁、そして最上階の部屋の天井高をずらすことによってランダムになった頂がかもす音楽を感じる外観。
建築の意匠によって、意図的に生じさせたそのリズミカルな建物の頂上付近のバランスは、ユニークでコミカルな印象さえ感じさせる建築の面白さを、空間の輪郭というフォルムによって表現しているようにみえる。
1階部分の透明感のあるガラスのファサードは、抜けのよい清々しい景観をこの建物とその周囲環境に波紋のように広げている。
四隅にあるはずの柱が見当たらないというただそれだけのことで、どこにでもある商店街の風景から隔世した感のある崇高な風景をつくりあげ、そこから空を見上げたときの風景のありかたを一変させるだけの新しさをもって築かれている。
構造的には1階から4階までが4階天井付近に飛び出したメガ梁(メガストラクチャー)による吊り構造というもの。それを4本の柱が目立たず支えるという。またアパートメントの外観の風景の一部であるエアコン室外機やガス給湯器、それどころかベランダやバルコニーの類がみあたらない。設備のほとんどがこの建物を支える4本の柱の内部や外観にかすかにのぞける縦に連なる設備スペースにゆったりと格納されているという。
600mmピッチで並ぶ目地もこの建築の外観を印象付ける要素になっている。必要要素でありながら美的な解釈も可能な合理的な装飾だとおもった。
それらは全て、この雑多な要素の混在する東京ならどこにでもあるような無個性というこの街の個性を、表象的に表現しているようにもみえる。
その意味でこのBUILDING Kは東京の、いやどの地方都市に連続して同様な計画的によってたてられたとしても、同じような存在感で日本の都市空間に存在しうるだろうことを想像させるものだ。
そこにはまさに自己を肯定的にとらえる批判的な精神がもつ工学主義がいきづいている。
外観の水平垂直が構成するシンプルさ、メガストラクチャーという多様さを内包するきわめて明確な構造、その建築が生み出す多様な生活のスタイル、超線形設計プロセスという明快なコンセプト。単純ではない簡略化された空間をつくりだすすべてのプロセスとそれを生み出す思考は、建築する思考そのものを空間に積み上げる明快なものだ。都市における建築の在り方と、同じく都市における建築家の在り方のひとつの道筋を示すアヴァギャルドな実験ともいえるだろう。