FORM_Story of design(... Kato Takashi weblog)

言葉・文字・印刷
pp

文字は不思議なニュアンスを言葉の意味に付与する働きを持つものだ。言葉はその切実な伝達手段のひとつとして文字を必要とするが、それは意味を先に持つのか、それともかたちを先に持つものなのか、それはその原初の姿をたどる厳密な意味での不思議な旅を経由する意味を探る道程に他ならない。

そんなことを考えるようになったのも他ならぬ、文字の不思議さに出会ったからなのだが、それは自分の書いた言葉が印刷され、文字になりかたちをあらわす時にまるで異なる力を得てうねる点と点の重なりのなかで線になり糸になり文字に化ける、力の濃さを見たことに由来する。

手書き、コピー、ワープロセッサー、写植、転写、オフセット、活版、さまざまな印刷の言葉がたどる運命のなかで、ことに活版印刷は独特の深い感性を文字に反映させるという点において強力な磁場を持っている気がする。それというのも自分が発した言葉を文字にしはじめて活版印刷に力を借りた自らの言葉に、今までに感じない奇妙な印象を体験したからだ。

そんな活版印刷を巡るショップがオープンして数ヶ月、さまざまなよい化学反応を起こしながら人々の間に浸透しつつあるようだ。
それはそこに関わる人々をも新しい関係性のなかに取り込みながら。



*活版印刷についての記事はこちらをご覧下さい。OPENERS
*カタログ「man made stone objects」
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...PP Blower.. Modern Glass Objects...
PP

プレパStudio Prepaは長野に工房を構える平勝久と平瑞穂の二人からなるガラス工房だ。プレパが作り出すボトルやグラス、ボウルやタンブラーはイタリアのガラスとも、北欧生まれのガラスとも異なる彼ら独自のものだ。
それは日常使用することを前提に作られているから繊細な美しさとともに力強さを備えていなければならない。涼しげな色合いのガラスは時に平面に、そして立体にと現実を映す鏡にもなるが、それはまた別の異なった次元を映し出す万華鏡のような多彩な光を生み出す。

プレパが手作りするガラスは、作品という枠を超えてより身近な私たちの美意識を鍛錬するためのオブジェのようにも見える。
作る行為をその素材に結びつけ、それがこの地上に生まれた過程にまで配慮を持つこと。それが平勝久の物作りにおける魅力であり、真髄でもある。彫刻を嗜んだという平はガラス作品における造形の確かさを捕まえるためにまずイメージをデッサンすることから始める。そんな精緻で細やかな感性がその作品に大胆な造形と、日常品としての魅力を付与する原動力になっている。

ガラスは自然にあるものを再構成して作られるが、生まれたままの姿で自然に還すことは容易ではない。そんな物の長い歴史にさえ気を配り、ガラスを自然環境にある人工物としてとらえる純粋さが作品に意味を与えその世界観をより奥深いものにしているのだろう。


2007年の夏にプレイマウンテンで発表される、PP BLOWER/PPブロワーはガラス工房であるPrepaと東京のファニチャーレーベルPlaymoutainが作り出す新しいガラスブランドだ。ブランド名にもなっているブロワーとはガラス吹き職人を指す言葉。PPブロワーが生み出す吹きガラスの技法にこだわったガラス作品のひとつひとつは、人間の手が作り出すという意味合いのマン・メイド・オブジェクト、そしていにしえのクラフトの概念を体現する確かな存在感を放っている。
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..PP BLOWER... Modern Glass Objects.
blower

PP BLOWER
28JULY (Sat)〜 19AUG (Sun) 2007
at Playmountain MAISONETTE
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...Patricia Urquiola...Antibodi Blossom...past time.
昨年の秋にギャラリー・ル・ベインで開催されたジョアンナ・グラウンダーとパトリシア・ウルキオラ展を最近思いだす。パトリシア・ウルキオラは1961年生まれのスペインのデザイナー。近年もはやスペインという括りでは納まらない世界的なスケールで活躍する女性デザイナーである。ル・ベインの展示ではAntibodi Blossom、というテーマーで花びらのようなソファのプロトタイプを展示していたように思う。

ミラノ工科大学では終生彼女の師となるアキッレ・カスティリオーニに師事する。最近カーサの記事で読んだのだが、彼女とカスティリオーニとの心の繋がりは深く、師の没後5年経って、よりその絆は確かなものになっているようだ。おもにイタリアのデザイン界で経験を積み、ヴィコ・マジストレッティとともに仕事をした経歴をもつ。現在では2001年に構えた自身のスタジオで世界中のクライアントとの仕事を精力的にこなしている。ウルキオラのプロダクトはイタリアデザインの華やかさと、自然にモチーフを得たかのように見える有機的なフォルムが際立っている。それはウルキオラが女性という性を授けられたことに少なからず由来していると思うのだが、それはどこかそれだけではない何か生命の躍動のようなものを感じさせる。

ウルキオラのキャリアのスタートは決して早すぎたわけではなく、むしろ遅かったといえる。しかし彼女は自分が何をすべきか最初から知っていたし、それは彼女が生まれたスペインの田舎町からマドリッドに出るときに既に決まっていたのだ。
ウルキオラが手掛けたラタンを素材にしたいくつかの椅子はエスニックでありながら美的な観点からのデザインが施されている。

先のAntibodi Blossomは、モローゾから発表されたAntibodi ソファの成立するまでのプロセスを展示していた。ファニチャーの制作プロセスを展示するとは何か未完成さを拭えないものだが、ウルキオラのこの展示方法は彼女が創出したAntibodi が、ものとは何なのかを饒舌に語っていてとても新鮮だった気がした。それはクラフトという手仕事の確かさに裏打ちされた、彼女の創作のプロセスに他ならない。
天井から赤い紐で吊るされたそれらプロトタイプはそれだけで当世のデコラティヴの風潮を感じさせたし、ある種の夢を表出させていたように思えたものだ。

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..studio job..home work...at moss gallery...
job moss

今年の5月にニューヨークのモス・ギャラリーで開催されたのは、スタジオ・ジョブのアメリカに於ける初めての個展、「ホームワーク」だ。今回の展示はモス・ギャラリーからのリクエストもあり2006年からその制作が開始されたブロンズをマテリアルに使用したシリーズだ。それは大げさな黄金色をしたウオールミラーと、台座を持つ7つの彫刻作品で構成されている。磨かれた青銅のきらびやかな輝きは今までのジョブの作品には見られない、アートとデザインの区別をまったくもってそもそものあり方から否定した、神話的な独自のスタンスを確立していた。
今回の展示物はモスとオランダのGroningerミュージアムが共同で企画した、「ドメスティック・トーテム・アンド・タブロー」とサブタイトルが付けられている。ポット、スツール、ランタン、マグカップ、コークス入れ、それら日用の品々で構成されている。
ブロンズとガラスと木によって構成された新しいスタジオ・ジョブのコレクションは、デュシャンのレディメイドのオブジェクトのようでもあり、機能のないただの静物のようでもある。

手付き鍋と深鍋、そしてスツールによって構成された、まるで夢物語の登場人物のようなピノキオと名づけれた静物。マグカップの連なりからなるマグ・ツリー、ポットとクッキー缶からなるクッキーティンフラワーベース、まるで浅草合羽橋道具街で売られている鍋の構成的な連なりを作品に落とし込んだような鍋のタワー、それらはくすんだ木の台座に据えられ、まるで未来から見た現代の失われた時代を振り返る、遺跡のようでもあるから不思議だ。
これらのホームワークコレクションはおそらく家の中にあるなんでもない日用品を組み合わせることによってオブジェを作る、子供のような遊び心を基底に据えながら、無邪気さとはかけ離れたところにある大人の世界の邪気に満ちた空想の世界をも表現しているように見えて恐ろしさをも感じる。

手付き鍋と深鍋、そしてスツールで構成されたピノキオなどはまじまじと見るまでそれがそんな日用品でもって成り立っているとは露とも感じられない構成力の巧みさがある。それは方法論こそ異なれ、70年代中頃イタリアのラディカルデザインの面々グロバル・トゥールズにも参加したリカルド・ダリージのナポリコーヒーポットのユニークな姿に見えなくもない。それは色やかたちこそ異なれ、国を問わずどの家庭にも見られるはず日常的な風景をモチーフにした健全なデザインだったのだ。
だからこそジョブがホームワークコレクションでつまびらかにして見せたものは、ここではない他のどこかのわれわれとはなんの関わりもない夢物がたりの世界ではなく、今ここにある現実の世界をあからさまにわれわれの前に提示する、今という時代と向き合うための訓練にも似た試練を示しているともいえないだろうか。

moss gallery
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...hella jongerius...in...office pet...vitra art basel...
office pet

今年のアートバーゼルは、この期間に合わせてドイツのヴィトラが発表したアート作品が凄い。グルチッチにロン・アラッド、ヨルゲン・ベイ、深澤直人、そしてヘラ・ヨンゲリウスなど、アートという観点から見たファーニチャーが発表された。

ヴィトラというオフィスファニチャーに特化したメーカーがディストリヴュートするアート作品とは如何なるものなのだろうか?
私が心ひかれたのヘラ・ヨンゲリウスが手掛けるオフィスに住まうペット、その名もオフィス・ペットだ。いやおうにも無味乾燥、無機質なオフィス空間にあって今必要なのはヒーリング効果のある音楽や、リラクゼーションのためのファニチャーではなく、ヘラ・ヨンゲリウスが手掛ける無意味で無機能、こんな無用な長物なのかもしれないと思わせてくれる面白さがある。
ヘラ・ヨンゲリウスはテーブルウェアやアート性の高い一点制作のオブジェなども手掛けてきた経緯から、こんなとっぴな発想が生まれたのだろう。

オフィスペットはオフィスファニチャーに見られるスチール製の脚を革でくるみ、その上の腰掛けるためのシートをではなく、同様の革で型作られた奇妙なオブジェを載せているだけの不思議なものだ。だがこれにはヘラ一流のユーモアとあっけらかんとした天才的な発想があるに違いがないのだ。
トンボや子供の頃にアニメでみたような不思議ないきもののようなかたち。それらはちょっとした収納システムとしての機能を与えられているようなのだが、けしてそれらはその用途には邁進しないだけのオブジェということにだけ完結したある種の傲慢さをもっている。
機能は決してそれだけでは人びとを豊かにしない。むしろ創造性を蝕む要素をはらんでいる。
だからヘラ・ヨンゲリウスは今の時代に必要な、本当の意味での癒しを個人的な思いつきだけで乗り越えようとする、勢いにみちたクリエーターなのだ。

photo:dezeen design magazine
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Konstantin Grcic Industrial Design..Myto chair....2
かたもち

プランク社はコンスタンティン・グルチッチのプロダクトとしては他にもミウラという名前を持ったバースツールとテーブルを発表している。2006年にはそのミウラスツールにまつわるエキシヴィションをニューヨークの街中で開催している。ミウラはランボールギーニの好きのグルチッチの趣味を反映している作品とも言われ、シャープな骨格を与えられた未来的な形をしたスツールである。
今年BASF社と共同開発されたミヤト・チェアは、最近のグルチッチのプロダクトデザインの趣味を反映させてか、素材の特性を生かしたディテールが際立っている。
まずは素材ありきの今回のBSFA社とのプロダクトという今回の試みにしても、与えられたマテリアルの特性をとことん研究しつくした痕跡がみられる。アルミニュウムという素材を削りだし独特の作品を作り上げたオランダの若手デザイナー、ヨーリス・ラールマンや、大理石で作ったジャスパー・モリソンなど、現代のデザイナーと素材は極めて密接な関係にある。

しかもグルチッチは椅子を素材そのものには還元せずに、自らのディテールを生かした物作りを達成している現代において稀有なデザイナーの一人である。
現在において彼のプロダクトが一部の人間に熱狂的に支持されあいされていながら、プロダクトとしての生命を真っ当せずに、不当に生産が終了されたりしている現実はもしかしたらそんなところに由来しているのかもしれない。

カンチレバーの椅子はその構造上今までの椅子にはなかった座り心地の良さと、座ることの楽しさを獲得した。しかし座り心地の良さとは素材に過度のしなりという付加を与え、素材に特別の強度を要する。有名なパントンチェアはその造形の完全なるイメージとの一致を見るまでの長いあいだ、その芸術的な造形を具現化するためにマテリアルの強度という、科学技術の発達を待たなければならなかった。

カンチレバーの様式を取り入れることによって得られる造形的な華やかさは、今までの歴史の中でも見られなかった稀有な美しさだ。だからこそミースはLess is moreという言葉の中に究極的な美しさを見出そうとしたのかもしれない。

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grcic | permalink | comments(0) | -
Konstantin Grcic Industrial Design..Myto chair....1
プランクは100年以上の歴史を持つイタリアの家具メーカーだ。イタリアの家具メーカーにしばしば見られるようにこの企業もファミリーによって代々運営されてきた歴史を持つ。創始者はカール・プランク。1893年のことだ。現在では4代目にあたるカールの曾孫であるマーティンが経営に携わっている。またクラフトの歴史、それは言い換えれば手作業の歴史なのだが、近年ではオートメーションシステムの導入によって、正しい効率化に従った現代的な大量生産を行っている。

コンスタンティン・グルチッチが先日デュッセルドルフで開催されたプラスティックフェアで発表したMyto chairはカンチレバー(片持ち式)の椅子だ。片持ち式の椅子は機能主義、バウハウスの時代に起源を持つ極めて現代的=モダンな椅子の形態のひとつだ。それはミースや北欧のアアルト、パントンらによって洗練の極みにまで高められてきた。
素材も鉄のパイプや合板、または強化プラスティック、現代では環境に配慮したポリプロピレン素材が主流である。
グルチッチのMyto chairはハイテク素材を使った先鋭的な顔を持った椅子だ。素材は化学企業BASF社が開発した先進のエンジニアプラスティックを使用。BASF社は1865年創業のドイツの化学メーカー。現在では世界中にシェアの広がるさまざまな化学製品、プラスティックの開発、農業用肥料なども手がける。日本にも進出している世界的な企業だ。

Myto chairはコンスタンティン・グルチッチとイタリアの家具メーカープランク社、そしてドイツの企業Badische Anilin-Soda-Fabrik社共同で開発された。ドイツの企業BASF社は2006年に4人のデザイナーを招きワークショップを開催、BASF社が開発したエンジニアリングプラスティックを使用するその可能性について議論を重ねたいう。その結果導き出されたのが椅子というデザインアイコンであった。
グルチッチは椅子はただ座るための機能をもっただけのものではないと思っているようだ。BASF社はそのワークショップにあたって今現在もっているあらゆる企業としての技術をデザイナーたちに提供した。そしてデザイナーたちはその技術力の高さと熱意に後押しされるように素材における最善のデザインを考えた。
grcic | permalink | comments(0) | -
... Hans J.Wegner....
職人にあこがれて

一枚の古ぼけた写真が残されている。ところどころ破れた跡があり陰画紙の傷の残る写真。のちの世界的な家具デザイナー、ハンス・ヨルゲンセン・ウェグナー、10代半ばの木工職人修行時代の写真である。
1914年、デンマークの田舎町の靴職人の息子として生まれたウェグナー。14歳で地元にある家具工房で木工の修行を積む。17歳でマイスターの資格を得たとき、のちの職人肌の天才的な家具デザイナーは生まれた。
ウェグナーの椅子作りはまさに家具職人のそれである。まずアイデアをもとにスケッチを描く。その後実際の椅子の五分の一ほどの図面を引き、実物と同様のミニチュアを作る。それからやっと実寸の図面に基づきプロトタイプを自らの工房で作成するのだ。また当初のアイデアを具現化するため、製品を量産するメーカーの職人との自由な意見交換がなされる。そこでデザインが変化することもあったという。ウェグナーの作る家具はウェグナーと彼が信頼する職人たちとの共同作業であるといえる。
人が生活のなかで使用する道具だからこそ、物作りにはデザイナーの自己主張よりまず使い手が優勢する。デンマークの家具に対する厳しい品質管理は無駄な製品が流通することを防いでいるのだ。

人びとの心に残るデザイン

造形的に見てウェグナーの家具には無駄なところが見当たらない。それどころかそれぞれの部位がほかの部材と必然的に連関し、時に人の卓越した技術力によって各部位が支えあっている。それがまた見た目にも美しさに至っている。リ・デザインの理念は時に過去を尊重することであるが、別の角度から見れば否定でもある。だからこそウェグナーの家具にはそれが生み出された時代に対峙する現代的なデザイナーの先鋭的な理念も見え隠れする。装飾はないものの職人の手技が生み出す技術力の高さは、装飾以上の装飾とともに誰にでも受け入れられる繊細なディテールを家具に与えている。
またウェグナーの家具は木の特質を活かした健全なものだ。それは木についての綿密な研究に基づいている。木の特質を知ることとは椅子作りに対するウェグナーの真摯な姿勢を物語っている。

家具を通して人と木とのつながり、しいては自然とのつながりを示したハンスウェグナー。それはとりもなおさず一人の偉大なクラフツマンが見た夢の物語に他ならない。


そして半世紀あまり時を経て自作の椅子に腰かけるウェグナーの写真。ここには時を越え少年の頃と同じ夢を描いた人間の優しい笑顔があった。
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