陶芸には土をこね、整形し、下絵や上絵を施し、釉をかける、人智のおよぶ作業の他に、釜で焼くという人手から隔離された未知の作業がある。
それだから陶芸の中に偶然生まれた美は他力の美とも呼ばれ、それは柳宗悦が唱えた民芸の基本的な美の概念ともつながる。
アダムが住む街ロサンジェルスにある工房アットウォーター・ボッタリーはそんなアダムがたった1人で切り盛りする作陶するためのスタジオだ。そこには作陶のための道具が身近にそろい、あたかもパーソナルな秘密という謎を含んだ錬金術のための基地のようにもみえる。
妻でアーティストのルイーズ・ボネットとの競作になる陶器に刺繍を施した作品は、制作数は少ないものの秀逸でアダムの代表作の1つだ。そこにはカリフォルニアという広大でネイティブなスピリチュアルな感性に満ちた土地のニュアンスが如実に反映されていて興味深いものがある。
ゆくゆくはこんな街中ではなく、ローカルな人と自然が共存する陶芸以外になにもない環境でのストイックな作陶のためだけの環境を持ちたいと願うアダム。今後50年をかけて継続していくアダムの陶芸を巡る旅に終わりはない。
彼の作る作品にはぬぐいがたい人の手が作り出す痕跡のようなものが染み付いている。
それは1人の人間が力強く生きることによってしるされる生きることの証でもある。私たちがアダムの作品に見て触れ、実際に使用して楽しむことが出来る事実は、彼と同時代に生きる私たちの小さな奇跡でもある。
*写真は今年の春の益子の空です