コンスタンティン・グルチッチは1965年ドイツ・ミュンヘン生まれ。今年のケルンの国際家具見本市ではA&Wデザイナー・オブ・ザ・イヤー受賞を記念してのインスタレーションを開催。現在もっとも乗りに乗っているプロダクト・デザイナーの一人である。
そのグルチッチが空間デザインを手がけた今回の写真展は、木村伊兵衛の展覧会であると同時にグルチッチのプロダクト・デザインの力量とルーツを僅かながら垣間見させてくれる貴重な展示になった。まだまだ日本での一般的な人気は定着しているとはいいがたいグルチッチ・デザインだが、早くからその才能を評価しているフランス、そして大メゾンでの展示ということもありその力の入れ具合も半端ではない。
今回グルチッチが用意したのはガラスの天板をもつ大小のテーブル。その白く塗られ曲がりくねった脚部を持つテーブルは、パリのどこにでもあるテーブルに着想を得てデザインされたという。そして純白のフォト・フレームに収められた伊兵衛の写真は壁に掲げられるのではない。まるで祖父母の家にある、懐かしい想い出のこめられた写真のようにグルチッチ・デザインによるテーブルの上に並べられる。
観覧者はそのまわりをぐるぐるとまわる。時に思慮深く、時に漫然としながら。しかし伊兵衛の写真に、そしてグルチッチのプロダクトにこめられたシンパシーはそれぞれの作品の上で確実な科学反応を起こす。時を超え、場所を越えて。それらの写真を通じて同じように時を超え、グルチッチが伊兵衛に友人以上の親近感をいだいたことは想像にがたくはない。
だからこそわれわれがこの写真からいだく感動は、ただ作品集のページをめくっているだけでは得られないようなたぐいの、生きることと同等の貴重な体験そのものになるのだ。
そしてそれは会場をあとにして銀座という街の雑踏のなかにまぎれても、その体験は鮮やかな記憶となって心の中に居残り続けていた。
*
こちらでも木村伊兵衛xグルチッチ書いています