2005年にデザインされ、イタリアのフロス社から発表された、マルセル・ワンダースのペンダント・ランプ『ZEPPELIN』、は白いパウダー状のコーティングを施された、収縮する繭のような、コクーンと呼ばれる合成樹脂で覆われた金属の支柱に、コンタクト・レンズなどに使われる合成樹脂素材=ポリメタクリル酸メチル(アクリル)の、水晶のような燭台を持つシャンデリアである。
ツェッペリン=ZEPPELINはカスティリオーニ兄弟へのオマージュとして作成された経緯を持ち、それは1959年にカスティリオーニ兄弟が当時の新しい素材、コクーン(繭)という合成樹脂素材が熱に強く、照明器具にも応用可能であることを発見した事から始まる。
それは当時アメリカから輸入されたスプレー拭きかけの樹脂素材で、ハワード・ミラー社でのジョージ・ネルソンのバブル・ランプの仕事に応用された素材に似ているともいえる。
翌年フロス社がコンテンポラリーなスタイルのファーニチャーに見合う照明器具メーカーとして設立され、アッキレとピエル・ジャコモは、光源から発せられる光を均一にそして優しく拡散させる効果を持つ、コクーンをマテリアルとした画期的な照明器具、『Taraxacum』を含む幾つかの照明シリーズを発表、それらのシリーズは驚きをもって『ファンタズマ』と呼ばれ、後にトビア・スカルパをデザイナーに加え、そのバリエーションを含め精力的に展開していく。
1990年代半ばオランダのドローグ・デザインで名を馳せたマルセル・ワンダースは、アッキレ・カスティリオーニを自身の創作活動に於ける、精神的な支柱、祖として捉え、同じフロス社から2001年、吹きかける息に反応するユニークで合理的な卓上照明『B.L.O』を発表した事の経緯を踏まえ、フロス社の創業理念とも記念碑ともいえる、カスティリオーニが照明に応用する事を発明した新しい素材コクーンで、21世紀のワンダースなりの解釈でまったく新しいかたちのコクーンの照明を、カスティリオーニへの敬意を込めて発表したという。
光源にかざすと、メタルの支柱の上に張られたコクーンというマテリアルは、まるで繭を光にすかした時のような幻想的なイメージを浮かび上がらせる、生きもののように映る。
水晶を模って成型されたキャンドルのかたちをしたシャンデリアは、繭に包まれ空中に浮遊した様が、飛行船ツェッペリン号に似ている事から名づけられたと見え、現実離れした奇妙な存在感は、はかない写し世の夢を反映した、夢の飛行船の見た夢、その模倣のようにも受け取ることが出来、それはまたワンダースが祖と慕うカスティリオーニの夢をも昇華させていて、見目にどこまでいっても現実感が失われた様が、実に美しい豪華なシャンデリアである。
photo:euro_luce 2005.
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