まず金属を骨格として家具の基本のかたちが作られる。その上に工業製品である特殊な粘土ーインダストリアル・クレイをぬり重ねて成型していくのだが、それはバース自らの手でまるで彫刻作品を創るかのような過程を経て製作されていくという。(Clay furniture.)
2004年に彼が通っていたオランダにあるアイントフォーフェン・デザイン・アカデミーの卒業制作の為に用意されたシンプルだが構造的な作品『SMOKE』は、既成の骨董家具を燃やしただけの野心的な作品だ。マーティン・バースはその一作だけで世界中のアヴァンギャルドで先鋭的なフリーキーな人々の注目を集めた。
バースはその『SMOKE』に至る道のりの過程で様々な突飛ともいえる家具に対する執着的な実験を行なっている。その一つは、町で拾ってきたバロック趣味の家具を自室の窓から投げ落とし、その破壊の具合がもたらすありえもしない家具の肢体を、自身の作品に転化出来やしないかっといったていの、まったくもってアナーキーな発想であった。
その『SMOKE』の試作段階では、ほんの僅か目を放した隙に作品を灰にしてしまったこともあったという。
そのような訳で彼のアパートの裏には無残にも破壊された骨董家具がうず高く積まれる事になる。
バースがクライアントからの要望で歴史的な世界の名作家具を燃やす事になった時、彼は燃やす事によって理解される名作が名作である由縁を知る事もあったという。そしてあまりに象徴的な出来事はその装飾が過多であるが故にすっかり流行から外れたバロック趣味の骨董家具を燃やす事の中から、焼け落ちて何%かの装飾が失われた家具を見て思い至る、燃やす前と燃やした後とでは何れかが美しいか、と謂う哲学的な問いを発するに至る。