1999年のRough-&-Readyプロジェクトは、巧妙にデザインされた、高価な家庭製品に対するアンチテーゼとして、その頃彼が妻のエマと熱中していた、リサイクルされたマテリアルを使用した一連の家具作品である。ボーンチェはそこで、完成された家具=既製品ではなく、設計図のみを(組み立てキットのようである)無料で提示することによって、この様な時代にあって高価な贅沢品である、作家性のある作品を、ロー・コスト(コストレス?)で提供することを試みた意欲的な作品である。
そこには、リサイクルされた木材と、古い幾つかのブランケット、そして梱包用のビニール紐があるだけだ。
のちに彼は自身のそのプロジェクトを、ロー・テクで簡素なもの、と表現している。
椅子とテーブルとキャビネットのRough-&-Readyコレクション、そこには後の、彼のロマンチックでいて華美な装飾を施されたイメージは皆無で、むしろ質素であり、まるで学校の実験室か、オフィスの倉庫のような、ミニマルな雰囲気を漂わせている。
消費者はそれを自分で組み立て、もし求めるのならば自ら修理をし、再び分解してリサイクルする事ができる。
現代において消費者は、大量の物の中から製品を選ぶ自由を与えられ、選択肢は無限に与えられているように見えるが、むしろ選択肢は狭められ、我々はマス・コミの情報に左右されながら消費の飽くなき連鎖の中に一つのシステムのように組み込まれている。
現代社会に於いて消費される事は避け得ない事実としてある。その思想・風潮はリサイクルの連鎖の中には決して組み込まれる事がない。
生産と消費の繰り返しである現代社会にあってプロダクト・デザイナーのおかれた立ち位置は、その消費の連鎖の中にあって継続して作品を作り続けることか、その状況に一石を投じる一か八かの賭けを仕掛けるしかないという状況に置かれている。
彼はその作品に於いて、選択の余地を与えることと(いわば設計図を与えられた者には、作る事と作らない事の選択の余地さえ与えられている)、消費されること=非リサイクルの連鎖を食い止めたかったのかもしれない。
おそらく現在において彼のもっとも有名な作品はハビタから2003年に発表され後にArtecnica社(カリフォルニアのデザイン・カンパニー。ボーンチェの他の多くの作品から、日本の村上隆氏の作品、主に繊細な美術作品を取り扱っている)から発表された『Garland Shade Light(ガーランド)』であろうか?
それは先に発表された『Wendenesday』の廉価版であり、高名なアーティストの作品で、しかもこれだけ美しく独創的な作品が手頃な価格で手に入れることが出来るのは我々消費者にとって幸運な事である。
真鍮製のシートの上にカッティングされたボーンチェの花々は、日本の生け花の手法のように、慎ましやかにそれを手に取り、それを生けるものの手に委ねられるままの野の花のように受身でいて、それを手にする者のその時の精神状態さえをも映す写し鏡にもなる。
彼は現在新たなプロジェクト、プラスチックの生産の技術の応用に関する研究と、スワロフスキー・クリスタルを使った自身の作品のバリーションの開発に、彼の新しいフランスの山奥深いアトリエで、3人のアシスタントと共に没頭しているようである。
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