彼女はまず自分をデザイナーである、と定義付けする。そしてクラフトであることがテーマであると。そして彼女にとってのクラフトとはハイ・テクとロー・テクをミックスすることである。
最先端技術と先端素材を使って原初の名残りのあるかたちを創り出す事。
そしてそれがユニークでインダストリアルであること、未来と過去(それは古代アフリカの古典的なかたちの花瓶をハイテク素材であるポリウレタンに置き換えてつくる事であったりする)。
彼女にとって他の時代・異なるカルチャーはその創作においては理解しがたい相容れないものではなく、しばしば彼女の大切なモチーフになったりする。
彼女がデザインしたなんともクラフトの香りがする折りたたみ式の椅子(シープ・チェア)は遠くアフリカはウガンダの古い椅子からインスパイアされたものだ。
そしてこれはポスト・モダンの特徴でもあるのだが歴史的なモチーフやディテールからの引用、もしくは骨董的な要素のある中古家具にほんの少し手を加えることによってコンテンポラリー・アートに変えてしまう事。
ここ数年彼女の大きなプロジェクトはドイツのVitraやニンフェンブルグ、そしてIKEAやMaharamなど海外のクライアントとの仕事がメインであるが、自ら立ち上げたJongeriusLABでのあくまで個人的な生産のプロセスを経たアヴァンギャルドな仕事と海外のクライアントとの制約の伴った仕事の間にはある種のジレンマが生じたりはしないのだろうか?
しかし彼女にとってはそれは彼女を奮い立たせる材料にはなっても彼女のクラフトには微塵の影響も与えない様である。
しかも彼女のデザインがある伝統的な体制に対して緩やかにだが確実に良い刺激を与えていることは間違いがないようである。
彼女はあえて自分の作品の中に本来完璧なものの中にはありえないはずの作り手の痕跡を残すことに長けているようである。そしてそれが彼女の作品にあっては欠点にはならず時にウイットに富んだチャーム・ポイントになる。
彼女とマッカム社にとってB-setは一つのチャレンジであった。何故なら通常メーカーにとっては欠点を持った商品を製品化する事には大きなリスクが伴うものであるのだから。しかしB-setを正規の生産ラインにのせることは彼女にとっては欠点を楽しむ為のプロセスにすぎない。
そしてこれは現代オランダの優秀なデザイナー達に共通する特徴でもあるのだが、製品の中に未完成さや欠点を潜在的に内包させているよう見えることがある。そしてそれを我々を取り巻く自然環境がくだんに内包しているありのままの姿になぞらえ、それらこそが我々の生活を起伏にとんだ豊かなものにしていないかと問い、物が持つ欠点が愛嬌になりはしないか?もしくは愛しいものになりはしないか?と問う。
彼らの前で我々の価値観が試されているかのようである。