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「都市構造の転換を考える」
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昨日まで田町の建築博物館ギャラリーで開催されていた展覧会「都市構造の転換を考える」(日本建築学会建築文化事業委員会、担当委員=藤村龍至氏、田中元子氏)をやっとみにいくことが出来た。
本展は、人口減少社会を迎えた日本における、都市構造の転換という問題意識をもった展覧会だ。それは、大都会である東京よりも、むしろ地方都市においてより顕著で切迫した問題にふれるテーマでもある。
そんな時代性を反映してか、 6つの展示のうち、5つがなんらかのかたちで地方都市をテーマに問題提議をしている。

ドットアーキテクツの大東翼氏、403architects辻琢磨氏、architecturephoto.net後藤連平氏、静岡文化芸術大学中村紀章氏、YOUSUKE TAKATSUKA高塚陽介氏の五人が実行委員をつとめる「浜松建築会議」は、浜松という街の現状をつぶさに観察することで、建築家の職能をいかしながら、この街の新しいあり方を模索する。浜松に建築の議論がないことに問題意識を感じたという彼らは、具体的には、浜松建築会議と題した若い建築家たちによる、地方における議論のロールモデルをつくる場を創出することから始めた。浜松も他の地方都市の例にもれることなく、中心市街地は軒並みシャッター街となっており、空き店舗や空き区画の目立つエリアがあるという。パネルにあった浜松駅前の様子は、エリア全体が更なる再開発を待っているような風情があり、その様子は僕にとって馴染みの深い広島駅前に似ていた。浜松建築会議では、活動の一環として空室を利用して建築家、静岡文化芸術大学の学生有志らによるワークショップなどを行うスペース「みんなのにわ」を開設。既存の場所の再発見とともに、場所の魅力を実感ともないながら考えることを同時に行っているようにみえた。後藤連平さんとは名古屋のNのミーティングでご一緒させていただいたこともあり、パネル展示をみながらこの親近感のある街、浜松の現状について僕も一緒に考えてみたいと思った。

「ショッピングモータリゼーション年表」と題した速水健朗氏のパネルは、1900年から現在までの都市の出来事を中心とした年表を展示。110年間の世界の歴史を都心計画と消費を軸に俯瞰してみせた。時系列にそって関連する出来事として、映画やテレビのタイトルが並ぶ。20世紀という激動の時代を振り返りながらも、あたかも週刊誌をみているような面持ちだ。年表に時折差し挟まれる都市や建築の写真により、時代とともに建築家の都市への関与が、都市自体のスケールから、施設自体のスケールへ、建築家が携わる「巨大さ」というものの概念が変化していったのがよくわかる。

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「長岡市のスタディ」(大野秀敏+東京大学大野研究室)は、現状の日本の都市が拡大ではなく縮小していくというシナリオを辿ると、都市インフラの住民一人当たりの維持費負担はそれに比例して増えることに着眼。住民あたりの負担を現状通り維持するためには、これまで通り都市が無秩序に拡大するのではなく、適正にスリム化する必要がある。そのための施策として、都心を一箇所に集中、あるいは、拡大していく中心部のなかでも、経済活動が活発ないくつかのエリアを選びだす。そしてそれらの市街地をつなぐ交通システムを、高齢者には負担の大きい自家用車ではなく、乗り換え可能なバスによる新交通システムで結ぶ提案。

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「マルヤガーデンス」(竹内昌義氏+山崎亮氏)は鹿児島の中心市街地にある商業施設の新たなあり方を模索するプロジェクト。通りに面した建物の壁面の緑化といったハードの提案はもちろん、目的を持たずに訪れた人々が留まりたまることのできる、ガーデンといったスペースを施設内に設け、交流の場と共に、観光客に対してこの地域の魅力を伝えるための場をつくった。飲食や物販が埋め尽くす従来型のショッピングセンターではなく、地域の活動や情報が行き交う交流の場所として商業施設が機能する、これまでにないあたらしい考え方だ。そこには建築家やデザイナーといった誰かがイニシアチブをとるのではなく、街に暮らす人びとの愛や歴史への憧憬を含めた、知ることを端緒にした人々の自発的な行動を促す提案となっていることに感心した。そのモデルとなっているのは、スペインバルセロナの旧市街地、ラバル地区の再生戦略。そこでは人が自発的に回遊できるシステムをつくることで、街が活性化したという。街も森や身体と同じように、新鮮な空気が循環する隙間をつくることで、物事の風通しがよくなる事は変わりがない。

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芝浦工業大学八束研究室+今村創平氏+菊地誠氏は「東京計画2010 TOKYO METABOLISM」を8つのパネルと、膨大なページ数のブックとムービーで展示した。人口減少の時代にむけて、国内における生産性維持のために世界各地から移民を迎えいれるという仮説を提案。移民の迎えいれ先の舞台として、東京湾上にメガシティを出現される提案。垂直水平にのびるエレベーター&エスカレーターシティ、床と梁によるミルフィーユ状のスラブシティ、都市の上に縦横にのびるフリーウェアシティなど、さまざまな形での近未来の超高密度シティ東京が描かれる。そのための東京の緻密なリサーチからみえてくるのは、地図にしてみると異形ともいえる東京湾という特殊な地形をもった「東京」という都市に、戦後いかに建築家たちが取り憑かれ、かように都市をデザインしょうとしてきたかという歴史がみえてくる。それは丹下健三による伝説的な海上都市「東京計画1960」へのオマージュを思わせる展示でもある。

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書籍化され広く認知されている「地域社会圏モデル」の展示は、長谷川豪氏の都心モデル、山のような集合住宅と、まるで都市の田畑のような世田谷大地。郊外モデルとして藤村龍至氏のスタジアム型の地方都市のモデル。中村拓志氏の山の斜面に巨大な祠のような建築がそびえる農村モデルの3つを展示。
長谷川案の新宿山と世田谷大地という、対比的な二つの提案は、東京という街に暮らすためのイマジネーションを刺激する。
藤村氏による「ローマ2.0モデル」は、街区中央を走る街路に向かって両側から聳えるスタジアム型の建築の中に、人びとが肩を寄せ合って暮らす高密度シティを提案。
街のインフラとなるコンビニを街の中に等間隔に配置したり、街の規模の設定に祭りのスケールを取り入れるなど、新しい時代のヒューマンスケールの創出に意欲的に取り組んだ案だ。
中村案の広島の山間部に敷地を想定した農村開発案も面白い。高齢化した農村の働き手に変わり、農業の担い手として、専門的知識をもった若者が移住する。農業のできる平地は作農にゆずり、交換可能なパーツによって山肌に寄り添うように一極集中型の巨大建築をつくる。
農業に携わることにいかにモチベーションを持たせるかが鍵にになる提案だが、食料の自給率が問題視されている昨今、可能性を感じる提案だ。
人はそもそも大都市においても、過疎化した村落においても、集まって住んでいることには変わりがない。その集まって住む、そこに地域社会圏をつくる、そんなかつて当たり前にあったものに対し、失われたものを取り戻すノスタルジーではなく、アクティヴな創造力によって向き合ったプロジェクトだ。

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HODCは2020年広島で夏季オリンピックが開催されるという仮説のもと、15組の建築家らが10年後の広島の姿と未来のオリンピック像を描いた。今回の展示では15組の提案のなかから、都市への提案として、A+Sa、藤村龍至、ユニティデザイン、フューチャースタジオ、メジロスタジオの5つの案を展示。A+Saの障害者と健常者が区別されることなく暮らすことのできるノーマライズドシティは極めて現代的なテーマだし、市民一人一人がオリンピックに意味をつける、グローバルをローカルで繋ぐようなユニティデザインの案や、高度に発達した情報化社会を逆手にとったメジロスタジオの案など、バリエーション豊かな地方都市の未来像を生き生きと描いていた。今回HODCはパネルのみの展示だったが、当日の様子や議論の模様をムービーで展示したら、HODCとしての建築やデザインの価値の伝え方がより明確になり効果的だったのではないかと思った。

「都市構造の転換を考える」と題された今回の展覧会は、現状の都市における問題点を浮き彫りにすると同時に、都市における建築そのもののあり方を再考するための展示であった。そして、建築における「都市」を考える上で、他にはない重要な展示になっていたと思う。いかなる開発もその土地がもつ歴史と、そこでの人のふるまいに意識的でなければならない。それこそが、持続と継続を支える根幹となるものに違いない。
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浜松建築会議のパネルが観てもらえて嬉しいです。
2010/10/15 1:52 PM by Shun Terada
寺田くん

コメントどうもありがとうございます。

浜松建築会議のパネルを拝見して、
浜松に行きたくなりました。
そのときは案内宜しくお願いします。

2010/10/15 3:59 PM by FORM

加藤さん

もちろんです!濃密なコースを計画しておきます。
2010/10/15 5:58 PM by Shun Terada
詳細で正確な解説どうもありがとうございます。
問題意識やパースペクティブが非常に近いと感じました、何か一緒に出来事を起こせることを楽しみにしています。
2010/10/16 12:56 AM by tsuji
辻さん

コメントどうもありがとうございます。
大文字の「開発」ではなく、「コト」からつながる何かを僕ら実現させなければならないと思います。
その先に「建築」や「デザイン」があれば、建築やデザインは誰にも受け入れ可能なシンプルなものになると思います。

11月末から12月頭にかけてNさんでHODCのエキシビションを行なう予定ですので、
その時にでも皆で何か一緒にやりませんか。


寺田くんも、引き続き宜しくお願いします。
2010/10/18 1:21 PM by FORM