FORM_Story of design(... Kato Takashi weblog)

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向田邦子 鮮やかな女性の生涯
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世田谷文学館で開催中の『向田邦子 果敢なる生涯』を見た。
向田邦子は愛の作家だと思った。時代は高度成長経済の真っ只なか、人びとはテレビや雑誌のなかにうつし出される、豊かな生活の提案にこれからの明るい未来をつなぎあわせていた。
そんな映画や雑誌文化、そしてテレビの中を駆け抜けて生きてきた、鮮やかな女性の生涯。それは今の豊かな時代に生きるわれわれにも鮮明な記憶を残す。

誰もが憧れていた生活、そして女性が自らの希望をもって人間らしい、自由で感情的に豊かな生活。そんな夢を焦燥感にかられ、渇望して追いかけながら手に入れ、繋いできたのが向田邦子の生活だと思う。
幼いころから温かい家庭にめぐまれ、文化的な家庭で育った彼女。四人兄弟の中の長女でもあり、他の兄弟のなかでもリーダー的存在であったという。彼女の芯の強さと、はかないばかりの凛とした美しさは、幼い彼女のポートレートのなかにもしっかりと刻まれている。
幼いころに患った病が原因で不自由なこともあったようだが、彼女の明るさは戦中戦後を通じても不変の輝きを放っていた。
向田邦子のつむぎだすストーリーの鮮やかな人間模様は彼女の生きざまに由来している。それは人びとを描くときに垣間見ることのできる、優しい眼差しと、人びとの苦悩をもうつす稀有な眼差しの力によるところが多い。

秘められた彼女のブライベートを明かしてくれる小さなエピソードが書かれていた。
生涯を独身で過ごしていた彼女は、ひとりの男性と恋におちた。
身体の弱い彼を気遣うように、手紙をしたためる彼女。それに対して忙しい彼女をいたわるような言葉と、身体の不調から先行きの見えない暮らしの不安と戦いながら彼女とのささやかな家庭的な日常に救いを見い出す。
人間としての些細な日常と小さな幸せを綴る二人の手紙からは、たった一本のビールとさしみが人と人とを繋ぐ鮮明な記憶となってそれを追体験するわれわれにひしひしと迫ってくる。

46歳で大病をわずらってからも、生きることは輝きをうしなわなかった。精力的な海外への旅行。旅先で写された写真には生きることとは、死とは、そんなものが写し取られていた気がする。
向田邦子が愛して身近においた道具たちはどこか男っぽい。李朝の器やタイで買い集めたという陶器たちは道具というものとは少し違った、その人の生き方をくっきりと縁取るための生きざまに見えたのは私だけではない気がする。
また友人たちが使い込んだ万年筆をねだる向田邦子はかわいらしさに溢れいとおしい。

女性のはなしに省略がない、とは会場で知った彼女の言葉だ。
短くそして簡潔に向田邦子という女性の生き方をついていて、思わずメモしてしまった一言であった。
向田邦子は途中でこの世界から降りたが、彼女の生きざまはさまざまな訓示にみちている。これこそがまさに人が織り成す鮮やかなストーリーだと思った。

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comment
僕もビールと刺身の話にグッときました。
手紙いいですよね。

妹の店のDMなど、ちょっとまねして文章書きたくなりますね。
そして家族に対する愛情もちょっと見習わないとと思いました。
鹿児島にいた頃が母が一番いい笑顔でいたと感じとれることなど。

会場はあの導線のなさが、意外と回遊できたりと。

もう一度行きたいくらいです。

2007/05/26 2:17 PM by GT
GTさま、はじめまして。
ビールとさしみの話にはほんとぐっときました。
何気ない日常のなかにあるしあわせのあり方が身に沁みてきました。
GTさんも妹さんがいらっしゃるのですね、私も一人おりますので見習わなければならないところが多々ありました。でも家族のなかの女性同士の繋がりって男には謎なところがありますね。
それとあの6畳間の展示からは昭和の古きよきかおりと、家族思いの邦子さんの気持ちが伝わってきました。
それらはノスタルジーで片付けられないリアリティーがこもっていると思いました。
2007/05/28 11:43 AM by FORM