先日地下鉄に乗って六本木に行ってきた。最近急速に文化の街として変貌しつつあるこのエリア。六本木ヒルズに森ミュージアム、この春には日本の工芸品を収蔵するサントリー美術館が東京ミッドタウン内に、そして防衛庁跡地に現代美術を中心に収蔵する国立新美術館が先週末オープンと、国際都市としても知られるこの街がにわかに活気づいてきている。
目的地は先週オープンしたばかりの国立新美術館。しかもその中にあるミュージアムショップだ。今でこそアートものの書籍を集める専門の書店は珍しくはないが、15年ほど前までは、都内にもほとんどなかった。今はなき銀座のイエナ書店や三省堂、紀伊国屋書店の洋書コーナー、または輸入レコードを専門に集める六本木WAVEなど、わずかな情報源から自分の必要なものをチョイスしていた。そんな中で当時私が良く通っていたのは上野にある現代美術館に併設されていたミュージアムショップや、図書室である。国立新美術館には青山のライフスタイルショップ、CIBONEが総合ディレクションを手がけたショップが入るということもあって前評判も高く、楽しみにしていた。
国立新美術館に着いてまずその前庭の広さに驚いた。六本木の駅を降りて細暗い路地を歩いてきたせいか、あたりがひらけた途端のこの眺望はものすごいギャップがある。しかも付近に高い建物がないので建築が圧倒的な迫力をもって迫ってくる。まさに建築家冥利に尽きる立地ではないだろうか。設計は1960年代のデザイン・建築における先進的な思想メタボリズムの活動で知られるの建築家の黒川紀章氏。氏は大阪万博の樹木のように増殖していくようにみえるタカラのパビリオンにおいて、新陳代謝というメタボリズムの理念の一つでもある『破壊』というモメントに基づき設計したことでも知られる急進的な建築家でもある。2007年の東京のど真ん中に黒川紀章氏の建築が建てられたことは何がしかの意味があると思っても良いであろう。国立新美術館ではあわせて氏の記念展も開催されている。
ミュージアムショップがある地階はエスカレーターを降りてすぐ左側がギャラリースペースになっている。そのギャラリーもシボネによって運営されているようだ。コンパクトなスペースながら、そのあとに控えるミュージアムショップのコンセプトを具現化するような展示が開催されている。今後も先鋭的な展示が期待できそうな楽しみな空間だ。
その奥に広がるミュージアムショップはそれぞれのコーナーがラックやボックス什器によってテーマごとに仕切られている。異なった要素を持ったプロダクトたちが並び、物を売るための空間であると同時にギャラリーのようなおもむきがある空間を演出している。
美術品の複製によるポストカード、アートに関する解説書や作品のミニチュアなど、ここではありふれたミュージアムショップの概念は捨てたほうがいい。『スーベニール・フロム・トーキョー』と名づけられていることからも分かるように、ここにはあらゆるトーキョーの今が映し出された優れたみやげものが揃う。
その中でも私の目をひいたのが、最近めきめきと頭角を現しつつある日本の若いクリエーターたちの作品だった。日本のすぐれた技術力や美しい風景を繊細なインスピレーションとして作品に落とし込んだ100%のプロダクトなど、ここで始めて見る作家の作品もあり、実に興味深いものがいくつかあった。
また通常ミュージアムショップには置かれないような民芸品や工芸品のたぐいもあり、セレクトは幅広い。シボネギャラリーや銀座のファインリファインなどのブックセレクトも手がけるBACHがつくる書庫は、人気のコミックや近年海外で評価の高いニッポンの写真家の作品が多数揃っているのも見逃せない。
同じく海外で話題の日本のアキバ系、おタク文化を連想させるフィギュアのようなものもあり、世界に発信する日本文化をも標榜しているようにみえる。
個人的にはサブレタープレスが手がけた活版印刷のポストカード、Still-Life...セレクトのクラフト感あふれるトイブローチやGlyphの本など友人の作品も多く、親しみを感じる品揃えになっていて楽しめた。ベルリンからはBLESSのジュエリーケーブルも入荷しており、財布の紐がついついゆるんでしまいそうな今後も期待のミュージアムショップである。