ハイメ・アヨンは1974年にスペイン・マドリード生まれ。今年33歳になる若手デザイナーだ。現在オランダのロッテルダムにあるギャラリーVIVIDで「jaimehayon,stage in holland」が開催されている。
個展が開催中のVIVIDの壁面には、アヨンが即興で描いたドローイングがそのまま作品として展示され、その制作風景はyoutube上でパフォーマンスとしてみることが出来る。そこに描かれたドローイングはシュールリアリスティッックなおもむきに満ちており、そのモチーフはアヨン独自のものであると同時に、われわれの内面にひそむあやふやなものをも写しとっていて、この世のエッジを表現しているようにも見える。この世のエッジとは換言すればあの世に片足を踏み込んでいることでもあり、人間存在の根源を見透かしたようなまなざしが実に鋭い感性を反映している。アヨンが画くドローイングはシュルレアリスティックである点においてオートマティスム(自動記述)の様相を呈しており、目や頭ではなくまるで手が書いているように見えるのはまったくの偶然ではない。
アヨンの作るファーニチャーに顕著なのは動物をモチーフにしたような繊細なレッグを持ったキャビネットやデスクであろうか?それはグラフィティの要素からかけ離れているように見えて、アヨンのドローイング作品に見られる繊細な曲線がモチーフになっているようにみえる。それはまたジャン・コクトーのドローイングとも近しい。
同じスペインのデザイナーであるマルティ・ギセの例を見るまでもなく、アヨンの作品にはストリートで鍛えた感受性の豊かさがその作品に反映されていることは明確だ。
アヨンはマドリードでのグラフィティアーティストとしての活動の後に、スケートボードメーカーの誘いでアメリカ西海岸サンディエゴに招かれ数年過ごしている。そこでは主にスケーターたちのためにデッキにグラフィックを提供したり、Tシャツの絵柄のモチーフを描いたりストリートに落書きをしていたという。
そこで培われた自由な感性は、現在のアヨンのプロダクト作品にも反映され、彼の精神的な基礎となっているようだ。
1997年から2004年の7年間勤めたベネトンが主宰するコミュニケーション・リサーチ・センター「ファブリカ」では、オリビエロ・トスカーニ片腕として23歳の若さで主任デザイナーに任命される。その間にも小さなアトリエを構え自身の作品作りを続け、ヨーロッパ各地のギャラリーで高い評価を得る。2004年には独立、スペインバルセロナにアヨンスタジオを設立する。
われわれ日本人ならばアヨンの作るスカルプチャー作品に見られるサボテンのモチーフは、金むくの仏像や般若の面に見えないこともない。アヨンの人体をかたどったように見える磁器のスカルプチャーは、頭部に角のような特徴的な突起を持ち、それがアヨンの作品に独自性を与えている。
バスルームメーカーArtquitect社の為にデザインしたエレガントでデリケートなバスルームおよびバスタブはアヨンに名声をもたらした。またカンペールのためのショップデザインは、白と赤とベビーピンクを基調としたアヨン独自の世界観を反映させていて、ショップ全体が1個のアヨンミュージアムのようだ。複雑なレッグをもったディスプレイテーブルや、特徴的なペンダントランプは、まるで精神的に確立された自立したオブジェのようでもある。
sketch five