二日間にわたって名古屋のflorist_gallery Nで開催されたトークイベント「N Dialogue in Motoyma」。
天候にも恵まれ、店内に差し込む光も心地良い空間で寛いだ雰囲気のなかでのトークになった。先日ご報告させていただいた通り、僕は三つの対話に参加させていただいた。
第一話となったこのイベントの最初のトークでは、名古屋在住のアーティスト、源馬菜穂さんと、アートと街についての対話。
以前、源馬さんのNでの個展の際にはじめて彼女の作品に出合い、心地良い衝撃を受けたことはいまでもはっきり覚えている。普段アートが感じさせる敷居の高さから作品を購入することはほとんどないのだが、源馬さんの作品はひとめで気にいってしまい思わず購入した。そのときの作品はいま僕の部屋の一部になっている。
対話は、本トークイベントの全体のテーマであるNのある街、本山の話しから始まって、源馬さんの作品について、そして僕とNとの出合い、そして本トークのテーマとも源馬さんの作品とも通底する「とけ合う」、「つながる」をキーワードに、街と人との関係、建築やアートがそこで暮らす人や街にどう作用するのか、そんなことがそれぞれの実感をこめられて語られた。
Nを例にすると、ある街にたったひとつの建築と、ギャラリーや花屋として街や人に開かれた空間ができると、それだけ街はすこし変わる。そんな印象を僕はもった。もし、Nが本山になければ、僕はこんなに頻繁にこの街を訪れることもなかったと思うし、それが単なる住宅ではなく、ギャラリーや花屋という、オープンなスペースであることも重要だと思った、そんな話しをした。
写真家の詫間のり子さんと櫻井裕子さんの対話をはさんでのこの日の第三話では、この街で10年前にオリジナルデザインの家具を扱うレーベル「NAUT」を立ち上げた飯沼さんと、浜松から建築とデザインの魅力をウェブを通じて発信するサイトarchitecturephoto.netを運営する後藤さんとの3者鼎談。
飯沼さんは本山にリアルなショップをかまえながら、ビジネス的にはネットを主眼においている理由が語られた。木の質感をいかした家具をつくりながら、その手触りを生に伝えるのではなく、なぜ触ることも匂いをかぐこともできないネットを中心に商売をするのか?それは本山という街でものづくりや、情報発信をすることと関係があるようだった。
東京での売り上げが7割を越す、というNAUTの家具だが、まず、目にも手にも出来ないものを購入する真理を不思議に思いながらも、HPに掲載する写真や、実際のものづくりを丁寧にすることで問題をクリアする。ウェブという家具を触ることもにおいをかぐことも出来ない状況に、家具本来の価値判断をおくことで、作り手の手を離れたところでの客観性=社会性を獲得させようとする、そんな強い意志を、これまでウェブで製品を見ているだけでは感じられなかったNAUTの家具がもつ力強さを、僕はこの対話から感じた。
後藤さんはarchitecturephoto.netという情報サイトを個人で運営する人。サイトに毎日更新される建築、デザイン、アートの情報は自身がRSSなどのネットのアーキテクチャを利用して収集しているという。それを単に掲載するだけでなく、独自の視点で編集し、ときに作家と実際にコンタクトをとりながら記事として掲載しているところに、後藤さんの視点や人間味が加わり、他のどこにもないサイトとして情報の信頼性とともに評価されている。
今回の対話では東京ではなく、浜松から情報を発信すること、そしてその立ち位置が、東京の情報に偏らない、独自の視点をもちながら、フラットに建築やアートをみる目につながっていることが、対話のなかでの言葉やそこから伝わってくる体温からじんわりと伝わってきた。
僕は後藤さんの活動や飯沼さんの生業を自分なりに解釈しながら、自分のやりたいことにまず名前をつけてみることから始めてみようと提案。それは自分がなりたい姿、やりたい事を具体化するために有効だし、誰かにそう宣言したからには自分をその存在に近づけるために、そのための知識を身につけようと努力する。そうなれるように具体的に努力することに繋がると思うからだ。
後藤さんも飯沼さんも以前から付き合いのある友人だが、東京、浜松、名古屋と住む土地が離れていることもあり、なかなかリアルな場で対話することはこれまでなかったのだが、これからも自分たちの街を思う気持ちを繋がりにしながら、対話を重ねていければ、何かしらの未来がみえてくる、そんな印象をもつ対話になった。
翌21日はflorist gallrey Nの建築家・谷尻誠さんと施主である二宮ご夫妻との対話をモデレートさせていただく。家づくりの話しから、建築家との出会い、そして減額調整など、ライブでしか聞けない対話が自由な雰囲気のなかでなごやかに語られた。個人的にはこの施主あってのこの建築家、そしてこの建築家あってのこのお二人の施主、という感じで、Nはまさに建物にとっても街にとっても幸福な家づくりだなあ、とあらためて実感、感心しきりであった。
いま、名古屋では地元のデザイン関連イベントである名古屋デザインウィークや、古書や本をテーマにしたBOOKMARKNAGOYAといったイベント、そしてflororist_gallery Nを舞台にした建築とアート/デザインを巡る対話など、この街にはこれから何かが生まれる気配が濃厚だ。本ダイアローグの打ち上げでも地元の学生諸兄や、生まれ育った名古屋市内尼ケ坂と言う町で人と人、人とモノが出合う「サロン」を運営する名士今枝さんらと、この街についてデザインについて、そして僕らの生き方について議論をすることも出来た。いま街で楽しむ上でリアリティがあるのは当然ながら、そこに暮らしている人や、古くからこの街に生まれ、商いをする人と、そしてよそから来た僕のような人間が直に出合い対話することではないだろうか?
どの街にいてもその街を愛する思いが下支えしておこるコトやモノには、そこを訪れる人もそこで暮らす人も決して悪い思いはしないはずだ。僕もいつも彼らの思いに良い意味で巻き込まれ、刺激的なモノやコトを企ててみたいと思っている。
そんな信念をもって僕も何をしているのだ、そんな思いを再確認したイベントになった。
以上、写真:Mr.hori
イベントDATE:
【N Dialogue in Motoyama】
florist_gallery N において「つなぐ」をコンセプトに街と建築とアートを語り合います。
建築とアートの領域を超えた様々なつながりを生成する場とします。
2010年3月20日(土)、3月21日(日)の二日間
「つなぐ」トークライブ