谷中で芸工展が開催中です。芸工とは工芸とも少しことなるらしく、それがこの名前がついた由来になっているようです。工芸とは辞書をひくと「実用性と美的価値とを兼ね備えた工作物を作ること。また、その作品」とあります。谷中芸工展は今年で15回目。毎年この時期に行われています。
この町にある、ものを作ることや売ることをなりわいとするいくつもの工房や商店の軒先には、谷中芸工展と刷られた赤い手提げがさがっています。
どの町にかぎらず町歩きは楽しいものです。そこにはそれぞれの異なる暮らしや風景があり、それが町の顔ににじみ出しています。それを感じられる町を歩き楽しいものです。
谷中という町は上野の山と、西片などの高級住宅街を含む台地である本郷の間の谷間にあることから付けられた地名だそうです。たしかに谷中のまちまちにはくねくねと曲がりくねった道や路地があり、井戸もそこかしこにあります。それはこの町にかっては小川が何本も流れていたことを思わせます。
谷中に限らず下町にはかって川が多く流れていて、それを埋め立てて作った曲がりくねった道路が数多くあります。私が生まれ育った浅草にもそんな謂れをもつ道が数多く、小さい頃に釣りをした川のなかには埋め立てられて緑道になった川も少なくありません。
谷中は町歩きが楽しい町です。それはかって小川が流れいくつもの丘があり、緑の深いなかに小さな村があったことにも由来しているのかもしれません。
今でもこの町の人々は緑や町に共生するいきものをいつくしむ心を持っているし、かって美しい泉があり今は井戸になっているその同じ水を今も大切にするこころを忘れていません。ひと昔まえまではどの町にもあった町の人々が共同で使う井戸も、今では危険であるということからそのほとんどが埋められてしまっています。
いま谷中に残っている人々のコミュニティは、そんな人と人とのつながりを大切にする気持ちが日々の生活のなかで大切にはぐくんできたものだと思います。それはただ維持しようとすることからは生まれえないものです。それは強い意志で日々努力していく生活のなかから生み出される工芸のようなものです。
だからこの町の人々が作る日常のための小さな道具は、日々更新されていく暮らしのなかから生み出されてきたものだと思うのです。
芸工展とは、そんな谷中で暮らす人々の一年に一度のお祭りです。
※谷中芸工展 10月14日(日)まで東京都台東区谷中界隈で開催されています