デザインの秋の興味の中心は今年もオランダのデザイナーだった。デザインタイドのSarah van Gamerenサラ・ファン・ハメレンが作る蝋のシャンデリア、日本初上陸で量産が開始したヨーリス・ラーマンのラジエーター、ESPACE 218 / L'eclaireurで開催された「No Windmills, Cheese or Tulips」というダッチデザインによるインスタレーション、そして大本命のシボネでのヘラ・ヨンゲリスの新作発表。
ひとことでオランダのデザインといってもその表現するものは実に奥深い。クラフト、コンセプチュアル、そしてドラマチック。
その中でも近年世界的に高い評価を得ている理由のひとつとしてあげられるのが、高い職人の技術力に裏打ちされたクラフト性豊かなプロダクトだろう。それは言い換えれば高い職人の技術を自身の作品に応用する柔軟な考え方と、そのポテンシャルの高さだろうか。
その中でも特に注目したのは、昨今のオランダデザインブームを作った、といっても過言ではない、シボネから作品を発表したヘラ・ヨンゲリウスだった。
ヘラ・ヨンゲリウスは昨年に引き続き1年ぶりの来日。
日本ではクラフトの女王なんて呼ばれ方をしていて、手芸やキャラクターをモチーフにした作品などもあり、女子のファンも多いと聞く。
今回は発表したのは、日本の工芸のひとつである尾張七宝の技術を使用したもの。
古くて新しいこの伝統ある技術を、ヘラ・ヨンゲリウスは独自のストーリー性豊かな背景を織りまぜながら、まったく新しい解釈のもとに表現してみせた。
先のmetabolismさんのブログにもありましたが、今回のヘラ姉さんの作品は可愛さ炸裂で、たしかにはじけている。女の子モチーフの七宝焼きなんて、このようなアート作品では今までになかったのでは。しかもその七宝の技術の取り入れ方が圧倒的にアヴァンギャルドで、銅のプレートの素地をそのままに見せている。
制作を担当した安藤七宝の120年以上の歴史のなかでもこれは前例のない制法とか。
今までもヘラの作品といえば、オランダの陶器メーカーティヒラー・マッカム社から発表されている陶器のシリーズ「ノンテンポラリー」にしても、半分だけ釉薬を付けずに、マッカム社のあるフリースラントで採取される土の表情を生かした独自のものであった。
そこに見え隠れするのは一見してアヴァンギャルドなプロセスも、実はそれが作られる技法と素材に対する敬意の上に成り立っていることだ。
今回も使用されている動物モチーフにしても、ドイツの老舗陶磁器メーカーであるニンフェンブルグで発表したプレートのシリーズに端緒をもち、そのニンフェンブルグの磁器作品にしても高度の絵付けの技術のプロセスをそのまま作品に取り入れた「ユニーク・プレート」なるものである。
そのどれもが中途半端な遊びに始終しているのではなく、見た目にも完全な芸術作品に昇華させているところがヘラ・ヨンゲリウスの天才といわれる所以だろう。
今回対面したヘラ・ヨンゲリウスは、自分のキャリアの中でも充分代表作になりうる作品を発表出来る手ごたえからか、始終ご機嫌であった。それにしても遠い国での製品制作は、未知のプレッシャーとの闘いでもあると思う。今回七宝制作を手がけた安藤七宝、そしてヘラ・ヨンゲリウス、そしてシボネがタッグを組んだ素晴らしい仕事は讃えられるべきだし、日本の伝統工芸の分野においても確かな足跡を刻んでいると思う。